労働問題Q&A29
損害賠償債権/貸付金と賃金(給料)との相殺
(残業代/給与/退職金請求)
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損害賠償債権・貸付金と賃金(給料)との相殺
Q29 損害賠償請求権と賃金債権との相殺 (残業代/給与/退職金)
自分の不注意で会社の設備を壊してしまいました。
会社から損害賠償を請求されましたが、お金が無くて賠償でき
ません。
会社は「給料から損害額を天引きする」といっています。
確かに自分の責任ですが、給料が支払われないと生活できま
せん。
これは、仕方ないのでしょうか?
A29
損害賠償債権/貸付金と賃金との相殺(控除)
賃金と他の債権の相殺の禁止
労働者の故意又は過失により、会社に損害を与えた場合、(労働者
に損害賠償義務がある場合)会社が損害賠償額を賃金から相殺する
ことはできません。
労働基準法24条は「賃金は、通貨で直接労働者にその全額を支払
わなければならない」という「賃金全額払いの原則」を定めていま
す。
相殺禁止の例外
そして、法令の定めや労使協定等に定めがある場合は、賃金の一部
を控除することを認めています。
(所得税や住民税、年金保険料等が控除されることは上記の例外です)
そして判例等で控除が許されると判示されている場合(後述)を除い
て、会社側からの賃金債権に対しての一方的な相殺は許されません。
労働基準法第24条
第1項
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。
ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働
省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定める
ものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に
別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労
働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組
合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定があ
る場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
労働者からの相殺
労働者が相殺について合意した場合は相殺は可能です。
{使用者が労働者の同意の下(労働者の自由な意思に基づいて)労働
者の退職金債権に対してした相殺が有効とされた事例
最高裁平成2年11月26日判決}
よって、会社が労働者の同意なく、賃金債権(賃金を支払ってもらう
権利)に対して相殺した場合は、労働基準法24条違反となります。 また判例でも、賃金と損害賠償債権や不法行為を原因とする債権との
相殺を許されないとしています
(最高裁昭和36年5月31日判決、最高裁昭和31年11月2日判決)
相殺を認めた判例
しかし、判例で賃金からの相殺(による控除)を認めた判決もありま
す。
最高裁昭和44年12月18日判決は「賃金過払いによる不当利得返
還請求権と賃金の支払請求権を相殺する場合、過払いのあった時期と
賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期において
され、かつ、あらかじめ労働者に予告されるとかその額が多額にわた
らない等労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれのないものであ
るときは、労働基準法24条1項の規定に違反しない」と判示してい
ます。
賃金過払いとは、何らかの事情により(過誤等)本来支払われるべき
賃金の額よりも多く支払った状態です。
(例 労働契約で定めた基本給は20万円のところ、間違って25万円
振り込まれた)
この場合は、労働者の生活を脅かさない程度の控除で、時期も(過払
い時)より合理的な範囲で接着している等、労働者の権利や生活を不
当に侵害しない範囲で可能とされています。 貸付債権と賃金との相殺
会社(雇用者)が労働者(従業員)に金銭を貸し付けている場合につ
いても、原則、会社から賃金(給料)に対する一方的な相殺(による
控除)は認められません。
労働基準法17条(前借金相殺の禁止)
使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金
を相殺してはならない。
給与の前借りの場合に、翌月の給料から、前借分を会社が一方的に相
殺(天引きすること)することは、労働基準法17条に抵触する可能
性があります。
非常時払い
また、労働者が、出産、疾病、災害その他非常の場合の費用に充てる
ため、給与の前渡を請求した場合は、支払期日前であっても、労働者
に賃金を支払わなければなりません(労働基準法25条)
その場合は、法令に定められている「前渡」であり、貸付金とは異な
るので「本来払うべき期日に賃金と相殺する」ということではありま
せん。
もう既に渡しているという状態になっています。
給料の前借とは異なります。注意してください。
労働基準法25条
使用者は、労働者が出産、疾病、災害その他厚生労働省令で定める非
常の場合の費用に充てるために請求する場合においては、支払期日前
であつても、既往の労働に対する賃金を支払わなければならない。
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