労働問題Q&A37
休業命令の場合の賃金又は休業手当の請求
(休業手当/給与/賃金請求)
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休業命令(自宅待機命令)
休業手当(賃金の60%以上)を請求できる場合と
賃金全額を請求できる場合
Q37休業命令での賃金/休業手当の請求
(休業手当/賃金/給与)
私は、突然、勤務している会社から自宅待機命令(休業命令)
を命じられました。
理由をきいたところ、回答がありません。
理由無く休業を命じられ、その間の給与は平均賃金の60%
しか支払われませんでした。
なお、自宅待機命令というのは、就業時間中は拘束されるもの
でなく、実質就業禁止命令でした。
A37
使用者の責に帰すべき事由とは?
休業手当を請求する場合と賃金全額を請求する場合の違い
休業補償と休業手当の相違
労働基準法26条では「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合
においては、使用者は、休業期間中、当該労働者にその平均賃金の百
分の六十以上の手当を支払わなければならない。」
と定められていて、
会社(使用者)が理由も無く労働者に就業につか
せなかった場合は、賃金の60%を支払えば良いと解釈している経営
者も多いようです。
しかし、労働基準法26条で定められている規定は「休業手当」に関
する規定です。
そもそも労働者に就業させなかったことについて使用者に責任がある
場合に、労働者は賃金の請求権を失わないのです。
「民法536条2項 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履
行することができなくなったときは、債務者は、
反対給付を受ける
権利を失わない。
この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たとき
は、 これを債権者に償還しなければならない。」
この場合の債権者は労働契約で労務の提供を受ける雇用者(使用者)
であり、債務者とは労務を提供する債務を負っている労働者のこと
です。
反対給付とは賃金のことです。
賃金とは勿論、60%ではなく
100%支払われなければなりません。
(労働基準法24条
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払
わなければならない。)
よって、本来、債権者(使用者)の責任で就業が出来なかった場合は、
賃金全額を労働者に支払わなければならないのです。
それでは、労働基準法26条はどういう意味があるの?
そう思われるかも知れません。
民法536条の規定は任意規定であり、これに反する労働契約や就業
規則は合法ですが
、労働基準法26条は強行規定であり、これに反す
る合意や規則は無効です。
任意規定とは、当事者が法律行為である契約等についてある事項につ
いて取り決めをしていなかった場合、若しくは細かく決めていなかっ
た場合、適用される規定です。
賃金が全額支払われる場合とそれ以外の場合
具体的に、労働者と使用者間で労働契約、就業規則等で
休業命令に
関して取り決めをしていなかった場合は、民法の規定(全額賃金支払)
が適用されます。
しかし、取り決めをしていた場合は、民法の規定より当事者間の合意が
適用されます。
しかし、その合意も強行規定である労働基準法26条(平均賃金の60
%以上の手当てを支払わなければならないとする規定)
に違反する取
り決めはできないと言うことです。
民法の規定と異なる規定を定めたい場合は、その旨をあらかじめ合意す
ること(特約)により(強行規定に違反しない限度で)
民法の規定を
排除できるということになります。
強行規定とは、当事者の意思によってその規定を排除することが出来
ない規定のことです。
そして「民法の規定を排除する」合意や規則が無い場合の民法536条
と労働基準法26条の関係ですが、
原則民法の規定が適用されます。
判例では民法の適用がある場合、労働基準法の適用がある場合があり
ます。
労働基準法の「使用者の責」と民法上の「債権者の責」についてどこ
まで責任を負うかについては
労働基準法の使用者の責任が広く解釈さ
れているようです。
就業規則に使用者の責に帰すべき休業について定めがある場合
必ず
しも民法の規定が排除されるかと言うと、そうでもありません。
最近の判例(下級審判例)では、就業規則に「会社の責めに帰すべ
き事由により休業した場合は、会社は平均賃金の6割の休業手当を
支給する」と定めていた会社と労働者との争いに関して、民法53
6条の適用除外を認めていない判決が出ています。
(会社に賃金全額の支払義務がある)
使用者に責任があるとした場合
下記の場合には使用者に責任がある
(60%以上の平均賃金を支払わなければならない)としています。
(全て根拠は判例による)
1、業績不振や資金難、経営が悪化した場合
2、労働争議行為
(判例によって責任がある場合と責任が認められない場合があり、
ケースバイケース)
3、
懲戒処分があるまでの審査等の間に休職処分を受けた場合
賃金も休業手当ても支払われない場合
使用者に責任が無い場合には民法も労働基準法も適用されません。
使用者に責任が無い場合(休業手当も支払われない場合)とは不可
抗力の場合です。
震災や戦争等で労働者が就業できなかった場合です。
就業規則に(適正な)規定のある場合の懲戒処分対象事項に該当した
場合、懲戒処分等により就業が拒否された場合は、休業手当、賃金の
請求は認められません。
また、労働者の責に帰すべき場合の休業も同様です。
本事例の場合
事例の場合は、理由無く休業を命じられたものですから、使用者で
ある会社は労働者に休業期間の全賃金を支払う義務があります。
休業手当の計算方法については「休業手当の算定方法」をご覧ください。
休業手当の遅延損害金・消滅時効・付加金の適用については
「遅延損害金一覧表」をご覧ください。
休業補償と休業手当について
休業補償とは労働基準法76条1項で定められている補償の規定で、
「使用者は労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかった場合において
1 療養のため、
2
労働することが出来ないために
3
賃金を受けない場合
(以上の3項目に該当する場合に)平均賃金の100分の60の
休業補償を行わなければならないと定められている規定です。
休業手当とは異なるので、注意してください。
休業手当は、平均賃金算定のための賃金に含まれます。
休業補償は賃金とみなされないので、平均賃金の算定のための
賃金総額に含まれません。
また、行政通達により「休業最初の3日間について使用者が平均賃金
の60%以上の金額を支払った場合には、特別の事情が無い限り休業
補償が行われたものとして取り扱うこと」とされています。
(昭和40年7月31日 基発901号)
休業補償として支払われた金額は平均賃金の60%以上であった場合
には、労働基準法76条で定められた金額と(60%)異なっていたとして
も、
又休業補償以外の名目であったとしても休業補償として取り扱わ
れます。
休業手当は、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合において
は、使用者は、休業期間中、当該労働者にその平均賃金の百分の六十
以上の手当を支払わなければならない」とするものですから補償では
ありません。
休業補償は使用者の帰責事由に関係なく、業務上の負傷や疾病の場合
の補償ですから、両者は異なるものです。
どちらも労働基準法で60/100という数字が定められているので、混同しやす
いので注意してください。
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